銀杏ララバイ

「捜してくれて有難う。
本当に父さんなら嬉しいわ。
明日、行ってみる。」



かおるは半信半疑だが、
やはりその言葉は何ものにも勝る。

本当に父さんなら… 
母さんの死んだ事を知らせられる。

しかし、さっきのギナマが口にした

決着とはどういう意味だろう。

ギナマは、

父が江ノ島に居るような事を口にした時は
軽い笑みさえも浮かべていたが、

今はまた真剣な顔をしている。

いや、心は他の事を考えているようだ。



「ギナマ、さっきの言葉はどう言う事なの。
何を決めたの。
分かるように話して欲しいわ。

私たちは特別の強い絆で結ばれているのでしょ。

特に年齢差はあっても、
あなたと孝史は実の兄弟以上の何かがあるわ。

一緒に遊んでいても一体化しそうよ。

あなた、今晩何かをするつもりなのね。
私たちにも話して。」


「夕食の後、話すよ。

まだきちんと決めていないところもあるから
もう少し考えてから。

ここでの食事も最後だね。
でも寂しくはないよ。

じゃあ、後でダイニングで。」



そう言ってギナマは姿を消した。



「姉さん、ギナマの言った事は本当かなあ。

本当に父さん、江ノ島に居るのかなあ。
江ノ島ってどこ。」



孝史の気持ちは、
諦めていた父のことで膨れ上がっていた。

本当に父さんがいれば… 

ギナマの言葉が本当ならば、
一刻も早く会いたい。



「確か、ここからそんなに遠くではないわ。

江ノ電って言う電車に乗ればいいのよ。

でも… さっきのギナマの様子、
ちょっとおかしかった。

何かを決心したとか言っていたけど。
最後の夕食って言う事もおかしいわ。

もう出て行けって事かしら。

江の島にいる人が父さんでなくても
ここには帰るな、と言う事かしら。

まあ長い事,いてしまったから当然の事かもね。」


「ギナマはそんな奴ではないよ。

ずっと居てくれって言っていた。」
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