銀杏ララバイ
がその時だった。
大きな黒い、いや、暗褐色の大きな鳥が
二人の上空で円を描くように
同じところを飛んでいる。
「お姉ちゃん、あれってカラスかなあ。」
それに気づいた孝史が空を見上げながら、
かおるに声を掛けている。
「違うわよ。カラスにしては大き過ぎる。
よく分からないけど…
鷲ではないけど猛禽類、
鷹か隼じゃあない。
動物園かテレビでしか見た事はないから
自信は無いけど。」
「ふーん。だけどあいつの頭、
何か模様が付いている。
変わっているなあ。」
孝史の言葉につられる様に
上空を見上げたかおる、
確かに頭の辺りに黄色っぽい毛が目立ち、
目を凝らしてみると
銀杏の葉の形をしている。
「本当… 銀杏の葉の模様がついている。
あ、孝史、気をつけて。
その銀杏の実を狙っているかも知れない。
さっきからそれを見ているような気がする。」
かおるがそう言った時だった。
上空で旋回していたその猛禽類の鳥は、
いきなり孝史の手を目掛けて
まっしぐらに下りて来た。
近くで見れば、
羽を広げた姿は二メートルぐらいはあった。
それが急降下して来た。
「わあっ、何だ。」
驚いた孝史、
いきなり大きな鳥が
上空から自分の所に急降下してきたから、
握っていた銀杏の実を落としてしまった。
慌てて拾おうとしたが、
そいつの方が速かった。
一瞬の事だった。
その大きな鳥は、
孝史が落としたその実を銜えて、
上空へと上がって行く。
「あいつ… こら、僕の銀杏を返せ。」
孝史は怒って叫んでいるが…
その鳥はやはり大きく旋回して、
そのまま東の方へと飛んで行ってしまった。