銀杏ララバイ
「以前テレビで言っていたわ。
人間が安易に餌を与えるのよ。
元々鳶は雑食で
死んだ小動物だって食べるんだって。
だから人間が食べる物は何でも食べるみたい。
食べてみれば美味しいから…
山の中で粗食なものを食べるより、
観光客が多いところで餌にありついたほうが楽だ、
と学んでしまったのではないかしら。
確かそんなような事を言っていた。
そしてここは数が増えてしまい
観光客のものを狙うようになっているのでしょ。
だからあんな看板まで立てているのよ。
カラスや鳩も似たようなものでしょ。」
「ふーん、そうか。
お姉ちゃん着いたよ。
どっちへ行く。」
2人は江の島へとかかっている大橋を歩き終えると、
鳶から父へと心を切り替えた。
そして興奮する気持ちを抑えて
目に着いた事を話していた。
橋が終わった時には、
立ち止まって島の様子を観察した。
地図を見ても小さい島だが…
島を取り囲んでいる海水が、
優しく迎えてくれたような気持ちになっている。
「そうねえ。とりあえず
あのお土産やさんが並んでいる
坂道を歩いてみましょうよ。
ギナマの言葉が本当ならば
父さんは日本式の宿屋、
それも小さい宿屋で働いているのよ。
父さんは借金取りに追われているかも知れないから、
大きなきちんとしたところでは働けないのだわ。
だから小さいところで
隠れて暮らしているのよ。
それで役所の人が探しても見つからなかった。
でも私たちは写真があるわ。
5年前のだけど… 」
そう言ってかおるは、
ポケットから5年前に写した
数枚の写真を取り出した。
それはあの鎌倉での幸せだった日のスナップ写真だ。
あまり写真は無いが…
それでもあの日に写した家族写真は、
たとえ家族の形態は壊れてしまっても、
いや、壊れてしまったからこそ、
大切な宝物として残っている。
そこに写っている父が、
一番今に近い父のはずだった。