銀杏ララバイ

「うん… 私が中学に入った時、
母さんが話してくれた。

私が父さんの悪口をいっぱい言った時、
母さんは恨んでいないと言って… 

父さんと離婚した理由を聞かせてくれた。

父さんは親友だった人の借金の保証人になり、
その人が消えちゃったから
父さんが借金を返さなくてはならなくなり… 

額が大きかったから、
母さんや私たちが迷惑を受けないように
離婚したのだって。

母さん、離婚などするではなかった、
と後悔している言葉も出した。

でも私たちのためにはこれで良かった、とも言っていた。

その母さんが死んで、
私たちがこんな事になるなんて思わなかったのでしょうね。」



かおるも孝史の気持ちが伝わったらしく、

分かり易くゆっくりと両親の事を話した。



「じゃあ、父さんは
他人の借金のために離婚して、
隠れて暮らしているのか。」



今さら離婚の原因が分かっても、
死んでしまった母が戻って来る事は無い。

が、孝史の中で、
父に対する憎しみが
少し薄らいだ気持ちになってきた。

しかし、いくら隠れて暮らしていると言っても、
もう5年、

少しは顔を見せてくれても良かったではないか。


孝史は複雑な気持ちを押さえ込もうと、
必死に動揺している気持ちと戦っているようだ。



「多分ね。だから名前も変えているかも知れない。

きっと今頃は柳井孝一ではないわよ。

私たちは母さんが離婚して横浜へ移った時に
高見姓に変わったでしょ。

母さんの元の姓。
だからすぐに見つかるとは思わないほうが良いわ。

小さい宿屋を見つけたら、
それとなく写真を見せて… 

さり気なくしないと駄目よ。」



かおるは、これからの自分たちの行動を示して、

大きく深呼吸をした。

それから上空を飛び交っている鳶たちを見上げ、

人通りの多い坂道を歩き出した。

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