銀杏ララバイ
「立てるけど… 体が痛い。」
少年がいきなりかおるの声に応えた。
それは弱く小さな声だが、
二人の耳にはっきりと聞こえた。
やっぱり意識を失って倒れていたのではなかった。
だけど体が痛いと言う事は、
どこか怪我でもしているのだろうか。
かおるは少年の肩に置いた手を離して、
彼の反応にそんな事を考えていた。
「お姉ちゃん、送っていってあげようよ。
途中でまた寝てしまってはいけないでしょ。」
確かに食べる物は食べた。
後はあそこで眠るしかないが…
まだ眠るには早い。
送ってからまたここに戻っても良いし、
他に適当な場所が見つかるかも知れない。
孝史もただの親切心か、
他の場所を探そうとしているのか分からないが、
自分の考えを口にしている。
そう、母がいた時は…
この時間は母の休めるひと時の団欒、
母に学校の様子を話したりテレビを見たりお風呂に入ったり…
する事は沢山あった。
しかし、今はただ眠るしかない状態の二人だ。
こんな所で果たして思うように眠れるかも、
自信は無かった。
そう思ったかおるは、
孝史にリュックを背負うように言い、
自分も荷物の入ったバッグを持ってきた。
自分たちにとっては大切な必需品が入ったバッグだ。
また戻ってくる事になろうとも、
置いておくわけには行かない。
立ち上がった少年は
かおるより頭一つ高かった。
小さく見えたのは、
痩せていて男らしい筋肉が無く、
髪型が男か女かわからないような、
肩までの長髪だと言う事もあったようだ。