銀杏ララバイ
が、その時になってかおるは、
父のことが無性に心配になって来た。
父は友人のために多額の借金の保証人になった。
そしてその借金の肩代わりを迫られ、
返済出来なくて姿をくらました。
そんな父が、
自分たちの手続きのために
横浜に姿を現して良いのだろうか。
あの時は東京の文京区に住んでいたが、
それでも東京と横浜など大人にとっては近いものだ。
将来的に良くない、と考えたから母も離婚した。
今にして思い出せば、
それでも一年ほどは怪しい人が、
横浜に移ったかおるや孝史の下校時や、
母の仕事先をも見張っていた。
孝史はまだ1年生だったから気づいていなかっただろうが、
自分は知っていた。
だから中学に入る時、
母に全てを聞き出したのだ。
どうしよう… 父は記憶が無いから気にしている風でもないが、
借金取りに見つかればどうなるのだろう。
借金のかたにこの宿を取られてしまうかもしれない。
それだけでは足りなくて、
もっと悲惨な事が起こるかも知れない。
殺されてしまうかも知れない。
そんな事を考え出すと不安が膨らみ、
かおるは心が苦しくなって来た。
記憶が無い父にどんな風に話したら良いのか、
他に相談できる人などいない。
そんな時、とても正常な判断だとは思えない事だったが、
何故かかおるの脳裏に、
あの鳶になっていた実鳶の言葉が浮かんで来た。