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「待って。」
純花は、後ろから響く声に足を止めた。
「えっ。」
驚いて振り返るとそこには彼がいた。
「呼び止めてすまない。
最近、見かけなくなったから。」
そんなことを言いながら、柔和な笑みを向けている。
純花は今の状況が飲み込むことができず、固まってしまった。
「あの、大丈夫?」
「へっ、あっ、大丈夫・・です。
最近、帰る時間が早くなったので。」
嘘。
彼と初めて話した言葉が嘘になってしまった。
純花は、彼をあきらめるためにこの本屋に通わないようにしていた。
それでも、彼が自分の存在を知っていたということが嬉しくて、純花は舞い上がっていた。
「・・・そうか。
いつも少し遅い時間だったからな・・・。」
彼は納得したように、うんうんと頷いている。
その仕草1つ1つが愛おしく、切なくて。
この人は自分のものにはならない。
そんなことは、分かっているつもりでも、それでもこれほど近くにいられることが嬉しかった。