BOOKS
純花が完全に自分の世界に浸っていると、不意にフワッと空気が動いた。
誰かが隣に立った。
本当にそれだけだった。
近くもなく、遠くもない自然な距離。
彼のコロンとタバコの混ざった香り。
純花はその香りが漂う空間にいるだけで、ドキドキするようなワクワクするような・・・。
それでいて心地いいような、そんな不思議な気持ちになった。
そして、なぜか泣きそうになった。
自分の感情のコントロールが出来なくて、頭の中が真っ白になって、持っていた本をその場において店を出てしまった。
徒歩10分で到着する自宅。
いつものように玄関を開け、
いつものようにキッチンにいる母に“ただいま”と言った。
階段を上がり、廊下の突き当りにあるドアへ一目散に駆け寄り、中に入った。
純花には店を出てから、部屋に入るまでの間の記憶はなかった。
そのくらい純花にとって衝撃的な出会いだった。