偽装婚約~秘密の関係~
「……なんで…」
拒まれるなんて思ってもいなかったのだろう。
あずさの目がこれでもか、というくらいに見開かれる。
『俺たちはあの日にもう、終わったんだ。
今さらやり直すことなんてできない。
それに今俺は沙羅と…婚約中だ』
あずさを拒む。
それが俺が自分で出した答え。
どうせ、俺たちはやり直せたとしても。
また、邪魔が入る。
そういう運命なんだ…たぶん。
「そんな…っ…ひどいよ…っ…ひどいよ…はるやっ…」
ボロボロとあずさの大きな瞳から涙が落ちる。
別れを告げた、あの日のあずさとタブって見えた。
だから俺はあずさに背を向ける。
『あずさ。
もう、おしまいだ。
2度と、俺に近づくな』
そう言い終えた途端、あずさの嗚咽が大きくなった。
ごめんな、あずさ。
俺、器用じゃないからさ。
だから…お前を傷つけずに突き放す、なんてことできないんだ。
お前を傷つけるのはこれで2度目だから。
だから、俺を恨んでくれ。
それでもう俺のことキライになって。
それから…大切な人を見つけて、その人と幸せになれ。
パーティ会場に戻る俺の背中を夜風がそっと押した。
その瞬間、一粒の涙が頬をつたったことを。
俺は恐らく、生涯忘れることができないだろう。