偽装婚約~秘密の関係~




『晴弥様、社長からの伝言で会社には戻らず大学を見て来い、とのことです』


『そうか。

じゃあ行くぞ』


用事を済ませ、出てくると車で待っていた森本にそう言われる。

そして少し車を走らせ着いたのはそれなりの知名度のある大学。


やはり、日本の大学とは規模が違う。

広大な敷地に広がる新緑。

歴史感じる建物。


来年の今頃、俺はここを堂々と歩いて…


そこまで考えてふと、思う。


アイツは…沙羅は、大学どうするんだろう。

やっぱり地元の大学にでも行くんだろうか。

それとも、就職?

と、いうかそもそもアイツは将来何になりたいんだろう。


『…俺は、何も知らない』

『晴弥様?』


心の中で呟いたはずの言葉が外に出ていた。

森本が不思議そうな顔で俺を見ている。



『俺、何にも知らないんだよな、沙羅のこと』


家族構成を知っていても、

生い立ちを知っていても、

今のアイツを知っていても、

俺はアイツが何を考え、何を想い、生きているのか何も知らないんだ。



目の前を楽しげに歩くカップルが通り過ぎた。


アイツ、こういうのに憧れたりすんのかな。

笑いながら、手繋いで散歩して、

たまには本気でぶつかって、

でも結局仲直りして。


そういうのに憧れてるんだとしたら…


俺は月島の家でのやり取りを思い出した。



――『沙羅は自由になりたい、さっきお前はそう言ったけど沙羅はきっとそれより強く今のままでいることを望んでるんだ』




…だとしたら俺は、

最低なのかもしれない…







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