偽装婚約~秘密の関係~
俺の言葉を聞いた沙羅は
心底呆れたような顔をする。
そして手探りで鞄を引き寄せるとまた紙を取り出した。
「ここにサインして」
その紙を顔の前につきだされる。
手書きの文章。
1番上には『契約解除同意書』なる文字。
思わず沙羅の上から退き、ソファに座りなおす。
その紙には
これからいっさい、うちと関係しない。
借金のことは後日相談する。
などのことが書かれていた。
そして最後に沙羅の署名。
その下の空白はどうやら俺の署名を書くためのスペースらしい。
沙羅の『本気』が伝わった。
俺はその紙から顔を上げ沙羅を見つめる。
相変わらず、真っ直ぐな目で。
もう…ダメだ。
そう、思った。
そしてペンを手に取った。
自分の名前を書きながら、思う。
俺はコイツと出会ってからいったい、何度こんな顔をさせたんだろう。
…目の前の沙羅は俯いていた。
でも、俺には分かる。
今にも泣きそうになっている沙羅の表情が。
ペンを置くと沙羅が顔を上げた。
…やっぱり。
俺の予想通り。
沙羅は笑っているつもりかもしれない。
でも、目が少しだけ、赤い。
「今まで…ありがとう、晴弥」
沙羅はゆっくりとした口調でそう言った。