偽装婚約~秘密の関係~
『………っ…』
どうしていいか分からなかった。
なぜだか溢れ出る、この涙を。
あんな言葉…ズルイだろ。
「晴弥に、好きだ、って…言ってほしかった…」
なんて、言うなよ、バカ野郎。
しかも、最後、声震えてたっつーの。
追いかければ間に合うかもしれない。
そんなことは分かってた。
でも、体が動くことを拒否していた。
理由は簡単だ。
ドアが閉まる直前、聞こえたあの声。
『………お待ちくださいっ!』
間違えるはずがない、瑞季の声。
多分、今頃瑞季が沙羅のこと慰めてるんだろうとは思う。
とてもじゃないが、そこに割り込んで行く勇気は今の俺にはなかった。
あの瑞季が…恐らく、本気だから。
本気の瑞季に俺は勝てない。
少し、前から気づいていた。
瑞季が沙羅に好意を寄せてるんじゃないか、って。
もし瑞季が本気で沙羅をオトそうとしているのなら、
あっさり沙羅を奪われてしまう気がして。
それが、とてつもなく怖かった。
きっと、そんなことになったら、
俺は立ち直れないくらいヘコんでしまうような気がした。