偽装婚約~秘密の関係~
しばらくソファに倒れこみ放心状態になっていた。
机の上に置かれた2枚の紙。
偽装婚約の始まりを告げた紙と
偽装婚約の終わりを告げた紙。
それを手にすると両方の紙をくしゃくしゃにして、壁に投げつけた。
なんで…っ…
なんでこんなことに…っ!
腹が立った。
どうすることもできなかった自分に。
そのとき、初めて気がついた。
沙羅の匂いがする…
微かだか、香るアイツの匂い。
ズキン、と胸が痛んだ。
俺はこの匂いがスキだった。
…いや、違う。
匂いが好きだったんじゃない。
そう思うと今までのこと、すべてに辻褄が合う。
もし俺が匂いではなく、アイツのことがスキだったのなら。
アイツを手放したくなかったのは、
沙羅のことがスキだったからで。
アイツが部屋を出て行ってなぜか涙が溢れたのは、
沙羅のことがスキだったからで。
アイツの匂いを感じて胸が痛くなったのは、
沙羅のことが、スキ…だったから。