偽装婚約~秘密の関係~
『アズサ』
その響きに一瞬動揺する。
だけど、なんでもない、みたいな顔でジュウゴの言葉を待った。
『俺、分かってたからさ。
晴弥の目が沙羅のところで止まること。
だから…見せたくなかったんだよ』
『どういうことだ?』
『そいつ、俺の初恋の相手』
悲しげに笑うジュウゴ。
『もし沙羅がお前と会ったら、
お前に惚れることは確実じゃん?
そしたら俺、初恋の相手、お前に取られるってことだろ。
そんなん、悔しいじゃん。
だから、お前にアルバム、見せたくなかったんだよ』
ジュウゴが一瞬、下を向く。
だけど、すぐに顔を上げた。
『晴弥。
俺、沙羅のこと諦める。
だから…お前のしたいようにすればいい』
何もかもお見通し、
みたいな顔でジュウゴは言う。
なんだよ、ジュウゴ。
俺がお前の扱いが得意なように、
お前は俺の考えが手に取るように分かるっていうのか?
『じゃあ、お構いなく、そうさせてもらう』
そう言った俺にジュウゴは笑顔を見せた。
もしかしたらジュウゴは
沙羅と再会することを狙っていたのかもしれない。
今となってはそんなことを思う。