偽装婚約~秘密の関係~
『金持ちってホントに人の心が金で買えると思ってんの?』
小馬鹿にしたように俺を見下して洋介はゲラゲラと笑う。
『世の中、そんなに甘くないんだよ、残念ながらね。
きっとお前は坊っちゃんだから世間なんてもの知らずに生きてきたんだろうけどさ。
まあ世の中には自分の思い通りにいかないことのほうが多い、ってことをよく覚えておくんだな』
コイツは俺のことをそんなふうに思っているのか。
残念だ。
俺はお前が思ってるよりずっと、世の中を知ってる。
だから人の心を金で買えないことくらい百も承知だ。
それでも、俺はそれで済ませたかった。
お前みたいな…見てるだけで虫唾が走るクソ野郎にこんなことをするくらいなら、俺は少々の金くらい払うつもりだったんだ。
『頼む…洋介。
沙羅と別れてくれ』
瑞季の驚く顔が手に取るように思い浮かんだ。
そして洋介が勝ち誇ったような笑みを浮かべていることもすぐに想像できた。
なんせ俺は今…洋介に土下座、しているんだから。