偽装婚約~秘密の関係~
『よし』
俺はそう呟いて立ち上がった。
少しでもショックを減らす方法…多分、これしかない。
ドアを開けると聞こえたこの声。
「瑞季さん!
どういうことですか?!
なんで勝手にあたしは晴弥の言葉に従うって誓わされなきゃいけないんですか!?」
どんな流れで沙羅がそう言ったのかは分からないが利用するしかない、
そう一瞬で決めた俺は
『へ~
お前、そんなこと誓ったんだ?』
と、言う。
沙羅は俺をじっと見つめる。
いや、見つめる、というよりは睨んでいた。
『じゃ、誓い通り、俺の言葉に従ってもらおうか?』
「ちょ…何言って…」
沙羅の言葉が終わる前に言う。
『今日中に、洋介と別れろ。
別れないと契約違反としてお前の親が背負う借金は返済しない。』
ジワッと沙羅の目頭に雫が溜まった。
そして沙羅は何も言うことなく部屋へ駆け込む。
そのあとを芽依が追いかけて沙羅の部屋へ消えた。
俺が考えた方法。
それは単純なことだった。
『先にショックを与えておく』
沙羅は頭の悪いヤツじゃない。
だから今やもう、ちゃんと自分の置かれた立場を分かっているだろう。
そこで持ち出したのが、
別れなければ契約違反にする、ということだ。
契約違反…それは両親と沙羅の死を意味する。
なんせ、沙羅の両親が借りた金はヤバイところのだからな。
きっと、沙羅は追い込まれていることだろう。
『ショック』という言葉とは違うかもしれないが、それでも沙羅に少しは『別れ』というものをはっきりと意識させることはできたんじゃないだろうか。
これがさっき俺が言った言葉に込められた、俺の想い。