偽装婚約~秘密の関係~
「………晴弥っ!」
沙羅が俺に掴みかかって来る。
怒りに狂った顔で。
でも俺は微動だもしなかった。
こんな展開、読めていた。
そして沙羅の目には今にも溢れんばかりの涙が溜まっている。
それでも沙羅の表情は怒りに満ちていた。
『沙羅、どけ』
「イヤよ!
あんた、いったい洋介に何をしたの!?
ねぇ!何をしたの!?」
もし、ここで正直に告白したら…沙羅?
お前は、なんて言うんだ?
今より怒るのか?
それとも泣くのか?
少なくとも俺に感謝したりはしないよな。
…分かってるよ、そんなことは。
感謝されることなんて望んでないから、最初から。
「答えなさいよ!
なんで黙ってるの!?
晴弥っ!!」
大粒の涙が沙羅の頬をつたう。
やっぱり傷つけずに、なんて無茶だった。
現に沙羅は今、こんなにも傷ついてる。
…俺のせいで。
『瑞季。コイツを部屋に連れて行け』
これ以上、傷ついた沙羅を見ていたくなくて。
瑞季にそう命じた。