偽装婚約~秘密の関係~
『かしこまりました』
瑞季が沙羅の腕を掴む。
『沙羅様』
瑞季の呼びかけに沙羅はなんの反応も示さなかった。
ただ黙って俺を睨み続け、涙を零し続けた。
瑞季はそんな沙羅を抱え、部屋へ連れて行こうとする。
瑞季の腕の中で暴れる沙羅。
その表情は最後まで、『怒り』しかなかった。
それは全て、俺に向けられた感情で。
ああ、こんなにも辛いものなのか、と今知った。
相手を思って行った行動を相手に理解してもらえない、というのはとてつもなく、辛かった。
でも分かってる。
その辛さをなくす方法は。
ただ、俺が沙羅に自分の口で説明すればいいだけの話なのだ。
でも、そんなことはできない。
俺の中の何かが、そうさせてはくれなかった。
「お願い!離して、瑞季さん!
離してよ!!!」
叫び続ける沙羅。
直視することが辛くて。
『瑞季、沙羅が落ち着くまで部屋から出すな』
沙羅を見ずにそう言った。
「ふざけないで!
どうしてあんたはそうやっていつも上目線なの!?
瑞季さん!降ろしてよ!
まだ、まだ…アイツに話があるの!」
沙羅の言葉にお構いなしと瑞季はドアを開けた。
そしてドアが閉まる直前、瑞季と目が合う。
その目は俺を心配しているような目で。
なぜか、目頭が熱くなった。