偽装婚約~秘密の関係~
頭を振って立ち上がった。
ちょくしょう。
どうしたって言うんだ、俺。
泣きそうになるなんて柄にもない。
部屋に戻った俺はベットに寝転がり、この間買った本を読み始めた。
でも、全然内容が頭に入ってこない。
理由は簡単だった。
全神経が耳にいっていたからだ。
隣の部屋から物音がしないか、そればかりが気になる。
すると突然、
「……晴弥」
と、いう声とともにドアが開いた。
『勝手に入ってくるな、って言っただろ』
ったく、瑞季め。
沙羅に全部喋りやがったな。
部屋に入って来た沙羅の顔を見て全てを悟る。
「…あたし…あたし…何も知らなくて…その…」
顔を歪めたかと思うと沙羅の目から大粒の涙が溢れ出した。
『泣くな、沙羅』
頬をつたう涙を指で拭ってやる。
あれ…コイツ、こんなにまつ毛長かったんだ。
あ…キレイなカタチしてんな、唇。
今思い出してもどうしてこんなことになったのか分からない。
でも、無性にキスしたくなったんだ。
だんだんと距離が縮まる。
沙羅は目を閉じた。
おい、沙羅。
なんで拒まないんだよ…バーカ…
そう心の中で呟いたと同時に俺は沙羅の唇に触れていた…