偽装婚約~秘密の関係~
『失礼いたします』
瑞季の声がドア越しに聞こえてきた。
ついに…来た。
『沙羅、立て』
俺の言葉に従って沙羅が立ち上がる。
「ただいま、晴弥」
相変わらず、若い格好しやがって。
少しはトシを考えろよ、母さん。
なんてことを言えるワケもなく、母さんは俺に抱擁してくる。
そしてゆっくりと視線を沙羅に向けた。
「こちらの可愛らしい女の子は?」
『ゆっくりあとでご紹介します。
とりあえず、座ってはどうですか?
母さん、父さん』
俺はスイッチをオンにしてニコッと笑う。
残念ながら俺は親の前で素の自分を出すことは決してない。
それが年中家をあける両親を安心させるための1つの方法なのだ。
そして母さんに続いて親父が入ってくる。
相変わらず、顔は厳しいままできっちりスーツを着込んでいる。
寸分の隙もない、とはまさしくこの人のためにある言葉だと俺は思う。