偽装婚約~秘密の関係~
「で、晴弥?
こちらの方の紹介は?」
母さんが品定めするような目で沙羅を見ながら言う。
『鬼灯沙羅。
僕の…婚約者です』
そう言ったあとテーブルの下で沙羅に軽く蹴りを入れる。
あいさつをしろ、という意味の蹴りだ。
なのに沙羅ときたら、眉間にシワを寄せやがった。
その顔、意味分かってねーな?
仕方なく今度は眼力であいさつをしろ、と伝える。
そうするとそれが沙羅に伝わったようで
「ほ、鬼灯沙羅と申します。
ただ今、晴弥さんとお付き合いさせていただいています」
緊張しているのか声が少し、震えていた。
「あら?そうなの?
こんな可愛い子を捕まえてきて~
ラッキーね、晴弥。
あなたもそう思うわよね?」
うふふ、と笑う母さんと無表情な親父。
どうやら母さんは沙羅を気に入ったらしい。
そして親父は無表情のまま、沙羅を見つめている。
しばらくそうしたあと
『………ああ、そうだな』
それだけ、呟いたきり、また黙ってしまった。