偽装婚約~秘密の関係~
ペット
それからしばらく、あずさの笑顔が頭から離れなかった。
ああしてアイツの笑った顔を見るのがあまりに久々だったから。
そして
「ただいまー」
と、いう沙羅の声が俺を現実へと引き戻す。
そうだ。
大事なこと、忘れるところだった。
あずさの件はなんとか頭の隅に追いやって部屋を出る。
『瑞季。今日はもう部屋に戻れ。』
『かしこまりました。
おやすみなさいませ、晴弥様。』
瑞季がリビングを出て行ったことを確認して沙羅の部屋に入る。
もちろん、ノックなしで、だ。
沙羅は目を閉じていて。
一瞬、寝ているのかと思ったが、違うことに気がつく。
なぜなら
「はあ…」
と、いう特大の溜め息が聞こえたから。
人間、寝ている間に特大の溜め息をつかない。
俺はそっと沙羅に近づき、
『…ったく、無防備だな、沙羅』
ベットの上に乗った。
いや、ベットの上…というよりは、沙羅の上に。