偽装婚約~秘密の関係~
それから俺たちはあずさの話題に触れることなく時間を過ごし、チャイムが聞こえて音楽室を出た。
教室にカバンを取りに行き、ホームルームを受けることなく車に乗り込む。
沙羅は…あずさと俺の関係について何か聞いてくるだろうか。
それとも、不機嫌でずっと黙ってるんだろうか。
どちらにしろ、この2つのどちらかの態度をとるのは明白だ。
それから約10分後。
車のドアが開いて沙羅の姿が見えた。
『遅いなぁ、沙羅』
なるべくいつも通りを装うとしてそんなことを言う。
でも沙羅の反応はない。
その代わりこんなことを言われた。
「あずさが今日はごめんね、だって。」
いつもとは明らかに違う声色。
そして、その内容。
『………あずさと話したのか』
「何?なんか都合の悪いことでもあった?」
いつもに増して挑戦的な口調。
沙羅…相当キレてんな。
でも、別に沙羅がキレることじゃない。
あずさと俺がどんな関係であろうと、それは沙羅が文句を言えた立場でもないしな。
そうは思っていても俺はそれ以上何も言えなかった。
車の中は終始無言で。
チラッと沙羅の横顔を盗み見ると移り変わる景色をぼんやりと見ていた。