偽装婚約~秘密の関係~
それからすぐに部屋のドアが開いて、沙羅が顔を出す。
その顔は不機嫌そのもので。
…困った。
『沙羅、なんで怒ってんだよ?』
とりあえずそんな質問をする。
そうすると沙羅は俺からだいぶ離れた位置に座って言い放つ。
「別に。怒ってないけど」
って、その顔でそんなこと、言うのか?
もろ顔に怒ってます、って書いてあるのに。
『もしかして…あずさのことか?』
もしかしなくたって、あずさのことなんだろうけど。
でも、一応確認。
「……そんなんじゃない」
俯いてそう応える沙羅。
もうその態度じゃ、はい、そうです、って言ってるようなもんだぞ?
沙羅、さっきからウソつくの下手過ぎ。
『なんだよ?沙羅。
俺にやきもち妬いてくれてんのか?』
「なんであんたになんかっ!」
正直、もうどうすればいいのか俺には分からなかった。
だから、こんなふざけた方法しか思い浮かばなかったんだ。
俺は立ち上がった沙羅の腕を掴み、後ろから抱き締める。
『意地張るなよ、沙羅』
頼むから機嫌直せ、って。
お前がそんな怒ってたらなんか調子狂うんだよ。
『沙羅。
あずさとは、なんでもないんだ。
信じてくれ…』
今やもう、俺には懇願するほか方法は残されていなかった。