偽装婚約~秘密の関係~
「ヤだ!
あんたの言葉なんて信じらんない!」
腕の中で沙羅は暴れ、叫ぶ。
それが治まったかと思うと、さっきとは打って変わって落ち着いた声で沙羅が言う。
「朝、あずさに抱きつかれて。
そんときのあんたはありえないくらい、優しい目であずさを見てた。
それでも、あずさとなんでもないんだ、って言える…?」
優しい目であずさを…
俺、そんなにアイツに弱いのか?
そう思っているとスルリと沙羅が腕の中から抜け出した。
「何?なんにも言わないの?
やっぱり、あずさとなんかあったんだ?
それとも過去のことじゃなくて、現在進行形?」
沙羅はビックリするくらい早口でまくしたてる。
「いいよ、別に。
あずさと付き合ってようが晴弥の勝手だよ。
でも、あんた…言ったよね?
あたしに、洋介と別れろ、って。
なのに自分には彼女がいるって、理不尽じゃん。
それともあたしの弱みを握ってるからなんにも口出しできない
って考えてるからあずさとも付き合い続けてるワケ?
ってか、あんたサイテーだよ。
あずさがいながらあたしにキスするなんて。
ホント、信じらんない。
マジで見損なった。
もうあたしに近寄らないで」
沙羅は大きな音をたててドアを閉めた。
そして俺は、あはは、と乾いた笑い声をあげる。
…さすがに、堪えたな、今のは。
サイテー
信じらんない
見損なった
近寄るな
すげえ言われたい放題だな、おい。
全部、沙羅の勘違いだって言うのに。
まったく、オンナってやつはワケが分からない。