Drawing~君と僕と~
「そこで何をしているの」

いきなり廊下から鋭い声がして、僕は思わず飛び上がった。

声のしたほうを見てみると、そこには1人の女子生徒がいる。驚いて動けなくなっている僕をよそに、彼女は僕のほうへ足早に歩み寄ってくる。

「何でここにいるの。この教室がもう使われてないって知っているでしょう?何年生か知らないけど、使用されていない教室に入っては駄目だって言われたはずよ。」

そう言いながらこっちを思い切り睨んでくる。

僕はその顔を見たことがあった・・・睨んでない時の顔を。

「あっあの、僕1年生じゃないんだ・・・。2週間前に君・・・えっと・・・沖野さんのクラスに転入した成川修。」

「あ・・・」

僕の言葉を聞いて、沖野さんは一瞬気まずそうな顔をした。

そう、彼女は同じクラスの沖野直子(おきのなおこ)さん。委員長を務めていることもあって、いかにも優等生という印象を受けたのを覚えている。

肌の色は透きとるように白く、長くほっそりとした指に、セミロングの漆黒の髪は真っすぐ下へ落ちていて、少しでも強い力で押すと壊れてしまいそうな華奢な体つきをしている。

形のいい眉と鼻、小さい唇。背は女の子の割に意外に高く、170cmある僕より2、3㎝ほど小さい位。

感情を表に出すことはなく、笑っている顔を見たことがない。ましてや彼女が話す姿を、僕はつい先ほどまで目にしたことがなかった。


実は転入当初、彼女に学校を案内してもらえる機会があったのだが、僕は人と話すのが苦手だったのもあり、つい断ってしまった。

今思うと沖野さんのような綺麗な人に学校を案内してもらえるなんて機会は滅多にないわけで。

断ってしまった瞬間から、断らなければよかったと後悔したのだった。

そんないわゆる憧れである沖野さんと、今僕は喋っているのである。正確には怒られているのだが。
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