こんな僕たち私たち
 少し恥ずかしいので俯きかげんだったけれど、とにかく、ちゃんと隣に聞こえるように。

 お世辞ではなく。

 慰めでもなく。

「ほんと。かっこよかった」

 真剣に相手に向かう七緒。

 投げられても投げられても諦めずに起き上がる七緒。

 まっすぐな七緒。

 全部、心からかっこいいと思ったんだ。

「――……」

 あまりの反応のなさに不安になった私は、恐る恐る隣の彼の表情を見遣った。

「……」

「……あのさ。せっかく人がかっこいいって言ってんだから、もう少ーしいい感じの顔してよ」

 眉毛は八の字、普段の三割り増し真ん丸い目で口をぱかーんと開けた七緒は、半信半疑な様子で言った。

「…や、何か心都にそうやってちゃんと誉められたの初めてな気ィしたから…びっくりした」

「別に初めてじゃないでしょ。私、今日の朝もちゃんと言ったじゃん。『カッコヨカッタネ七緒☆』って」

「あれは明らかに馬鹿にしてる感溢れる棒読みだったろ」

 七緒は、うっすらと星が輝き始めた空を見上げ、

「……そうだな。そう言ってもらえりゃ、あんだけ派手に投げられた甲斐があったかな」

 ぽつりと呟く。

「それはよかった」

 と、私も短く返した。
 普段は美少女顔の七緒。だけど昔から、柔道をする時だけは私の目に誰よりもかっこよく見えるよ。七緒はずっと七緒で、やっぱり「かっこいい」んだよ。

 そう言いたかったけど、私は私でやっぱり昔から、この微妙な恥ずかしさに耐えきれない人間で。

「…ふへっ」

「何だよ笑うな!しかもふへって」

 どういうわけかつい噴き出してしまい、雰囲気はぶち壊し。その自分のアホさ加減を少し悔やみ。

 そして。

 やっぱり私はそんな七緒が大好きなんだ。そうあらためて実感した。
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