こんな僕たち私たち
 黒岩先輩の魅惑的な笑みを見てると、それもありかもと不安が押し寄せてきた。

「えーっと……」

 ぽりぽりと頭を掻く、七緒の手。

 特別小さいとか美里みたいに色白だとかいうわけじゃないんだけど、やっぱり男の手には見えない。

「何つーか、そのー……」

「うん」

 目をらんらんとさせながら、黒岩先輩が「早く言って!」光線を送る。

 七緒。

 すがるような気持ちで、声を出さずに呼んだ。

 ……そういえば幼稚園までは七ちゃんて呼んでたのよね、と私は妙に場違いな事を思い出した。

 七ちゃんと心都ちゃんだった。でも小学校に入ってしばらくしたある日、七ちゃんはやめろって急に怒りだしたんだ。そして私の事も二度とちゃん付けで呼ばなくなった。

 今思うと、きっと誰かにからかわれでもしたんだろうなぁ。

 ――あの頃から私がもう少し可愛い女の子になれてたら、今の関係変わってた?

 七緒も、幼馴染みじゃなく女の子として見てくれてた?

 そんな考えがちらっと横切って、私は慌てて頭を振った。

 あー、もうやめやめ。昔の事うだうだ思ってもきりがない。とりあえず今は中2の「七ちゃん」に視線を戻そう。

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