こんな僕たち私たち
ばちん!!
…あら良い音。
なのに私の頬はいたって正常、痛くもかゆくもない。
これってミステリー?
恐る恐る目を開けると、そこには涙が出るほど見慣れた姿。
それは。
「ななお…」
「あ、あずま君!?」
私と黒岩先輩の間に立ち、左頬を赤くした七緒だった。
突然乱入した七緒は物怖じする事なく先輩の方を向いた。
「こいつ殴るのやめてもらえませんか」
そのえらく丁寧な言葉に、黒岩先輩が自分の右手をポケットに突っ込んだ。苦虫を噛み潰したような顔って、きっとこういうのを言うんだと思う。
七緒。
何してるの?
何でいるの?
私の頭の中は疑問符でいっぱいで、昨日の七緒の心境が今少しだけわかった気がした。
「あ、東君…何で!?」
自分の想い人を力いっぱい殴ってしまった黒岩先輩が、動揺した声をあげた。
「先輩」
「なっ何」
華奢な芸術品みたいな七緒の細い髪が、太陽の光を受けてきらっと光る。
「俺、何やっても先輩とは付き合えませんから。ヨロシク」
そう言うと七緒は、見ている人全ての劣等心を刺激するような、素晴らしく可愛い顔で笑った。
…眩しっ。
悩殺された先輩が「ふにゃ」とか「くしゃ」って感じで崩れた。
美里よりも七緒の方が、実は小悪魔かもしれないな──と、私は頭の隅のそのまた隅で考えた。もちろん隅じゃない部分は真っ白。
七緒が、私の方を向く。ゆっくりと。
その表情は、左頬が少し赤いものの、昨日ここにいた時と全く同じ。
私が14年間で見た事のない、あの不思議な七緒の顔だった。
「行こ」
七緒が私の手首を掴んだ。
頭が真っ白だった私は急に引っぱられて転びそうになったけど、それでも何とか持ち堪えて歩きだす。
左手には通学鞄。右手は七緒。
何だろうこの状況――夢?
私は、先を行く七緒の背中をぼんやり見つめた。
七緒の髪は相変わらずさらさらで。
背丈とか肩幅は私とあまり変わりなくて。
そのせいか制服は少し大きめで。
一見いつもと変わりない。でも、巧妙にできた間違い探しみたいに何かが違う。
そして、私は気付いた。