こんな僕たち私たち
さっきの七緒。

昨日先輩を待っている時にも見せた、不思議な表情。

今まで知らなかったあの顔の正体は―――










七緒の背中が止まった。

場所は校庭の隅の、飼育小屋前。

くるりと振り返った七緒は最上級のしかめっ面で、昨日の私に負けず劣らずの罵声を響かせた。

「このバカ!!」

「ば、ばかっスか」

私の運動部後輩っぽい反応に、七緒は大きく頷いた。

「本当バカだよ!!のこのこあんな所ついてって、あの先輩絶対キレたら何するかわかんねーじゃん!だいたいお前いつもいつも…」

「七緒」

「あ?」

「痛い?」

彼の滑らかな頬に、今はくっきり赤い手形ができている。

私の代わりに、私のせいでできた手形。

「…痛いよ。本気のビンタって初めてだけど、結構地味に痛いのな」

そう言うと七緒は、私の顔を覗き込んだ。

「お前ぶたれてないよな。あの1発だけだよな?」

そうだよ。

そう言おうとしたら胸に熱いカタマリがつっかえて、言葉が出なかった。

だから私は折れそうになるほど首を上下に振った。

七緒は少し偉そうに頷き、

「ならヨシ」

短い4文字の後、笑った。






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