こんな僕たち私たち

少し怒ったような口調。

―――私はこの台詞を前にも聞いた事がある。

4年前、今と同じように七緒の口から。

「…七緒。前にもおんなじ事言ってくれたんだよ。覚えてる?」

「そうだっけ。全然」

と、きょとん顔のご本人はすっかりお忘れのようだけど。

「あっそ」

私はしっかり覚えている。

──そういうとこ、ずっと変わらないね。

「……」

「…心都。何思い出してんだか知らないけど、そうやってにやにやする癖は止めたほうがいいと思うんだけど」

「七緒」

「へぃ」

「…ありがとー」

「…?いえこちらこそ。」

七緒はちょっと困ったように眉を下げて笑い(これが可愛いお嬢さんっぽくてやけに似合っていた)、

「お前も昨日飛び出してきたじゃん?正直あの時、心都がいなかったらヤバかったかも」

「ヤバいって何が?」

「その…防げなかったかもって事だよ」

七緒が不自然に視線を泳がせた。

「よーするに唇奪われちゃってたかもって言いたいわけね」

「くちびるって…何か嫌な言い方だなオイ。でもあの先輩と目ェ合わしてると、体動かなくなるっていうか、頭空っぽで逃げらんなくなるんだよな…」

そういうのをフェロモンっていうのかもしれない。どっちにしろ、私とは縁が遠いものだ。

「それは…私も飛び出した甲斐があったよ」

私はへらっ、と頬を緩めかけた―――けど、ここでとんでもない事に気付いた。

今となっては思い出すのも恥ずかしい、ついさっき私が言った言葉。

『嫌です…!だって私、大好きなんだもんっっ!!』

そして、先輩の右手が動いて、七緒が飛び出してきて―――。

「…」

「何固まってんだよ」

「…ねぇ七緒」

「ん?」

嫌な感じの冷や汗が背中を伝う。

「七緒、どこから聞いてた?」

もしかして――あの「大好き」、聞いてたりする?
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