こんな僕たち私たち
七緒は一瞬きょとんとしたけどすぐに「あぁ」と理解して、

「俺、今日朝練ないから遅刻ギリギリでさ。校門入ったら裏庭の方からすげー怒鳴り声が聞こえてきて、何話してんのかはわかんなかったけど何か危なさそうだったから。で、行ってみたらちょーど先輩が右手下ろそうとしてるトコで。」

「つまり会話の内容は聞いてないの?」

「うん」

よ、よかったぁ…。

私はホッと息をつき、思わずへたりこむ。七緒が不思議そうに尋ねた。

「どーしたの」

「いえ何でもないっス」

「そうっスか。ところで俺も1つ聞きたい事がある」

「な、何?」

心臓が跳ねた。なぜなら、隣の七緒が私の視線に合わせて腰を下ろしたからだ。

「俺、昨日から何回考えてもわかんないんだけど」

「だから、何?」

場合によっては黙秘権を行使する。

七緒はふざけた色なんて全く感じさせない表情で、言った。

「何で昨日怒ってたの?」

「──へ」

…何だ。そんな事。

私はてっきり、さっき先輩と何話してたのかとかそういう質問かと思っていた。

こいつそんな事を真面目に何回も考えていたのか、と思うと少し可笑しくて。

そしてやっぱり、外見じゃなく中身も、色んな意味で七緒には一生勝てないだろうなぁ、と思う。

「…七緒があまりにも素直だからだよ」

「は?」

「とにかくもう全然怒ってないしっ昨日はごめん、気にすんな!」

「強引な自己完結だな」

しっくりこなさそうな七緒だったけど、まぁいっかと呟くと校舎に目を移した。

「じゃー心都、そろそろ教室行く?」

そういえば本鈴が鳴ってからもうだいぶたっている。確実に1時間目は始まっているはず。

「うわ、うちら大遅刻じゃんっ!急ご!」

筋肉痛(昨日の裏庭ダッシュのせい)の体に鞭打ってパタパタ走りだすと、12月の空気が頬を撫でた。

心地いい冷たさを感じて、私の気持ちは落ち着いていく。
< 36 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop