こんな僕たち私たち
黒岩先輩は、私が予想もしなかった行動に出た。
わざとらしく咳払いをするとちょっと頭を下げ、
「悪かった」
素直に、謝った。
「……」
「……」
「…ちょっとあんた何、そのマジかよ信じらんねーみたいな顔は」
「え、私そんな顔してますか?」
「あんたはもーちょい自分の顔に責任持った方がいいよ」
「は、はいっ」
先輩はもどかしげに首を振り、
「あー違う違う、説教したいんじゃなくってぇ、あたしは謝りたいの!…朝はどーもごめんでした!!」
吠えるような口調だけど、今度は勢い良く頭を下げた。そして、そのまま上げようとしない。
私はどうすればいいのかわからず目をしぱしぱ瞬いていた。
…あ、こういう時は「顔を上げてください先輩」とか言うべきかな。
「か」
最初の1文字目で先輩はグォッと顔を上げた。
「東君にも謝っといて」
「…」
この人と喋っていると、私ってめちゃくちゃトロいんじゃないかって気分にさせられる。
…まぁ実際そんなに機敏な方ではないけどっ。
「――何だかなぁ」
誰に向けるでもなく、先輩は独り言のように呟いた。
「あたし、東君のあの可愛い顔と声が好きだったんだ」
「そ、そうなんですか」
「だってあれはもう半端ないじゃん!?初めて見て2秒で惚れたっつーの!ヤバい可愛いから!ね、そう思うでしょっ?ね!?」
すごい勢いで質問をしておきながら私に返事をさせる間もなく、先輩は続けた。
「でもさー。あんたの代わりに殴られた時の東君、全っ然可愛くねーの」
そう言いながら先輩は、私を見つめた。
相変わらず強い視線だったけど、あの睨むような感じとは少し違う。
「顔も声も、っていうかオーラが、あたしの好きな東君とは全然別人になっててさぁ。あんたはあんたでついに『大好きなんだもんっっ!!』とか言って本音ぶつけてきやがっちゃうし」