こんな僕たち私たち
…それはさておき。無言で手だけをやけに機敏に動かし続ける私の姿は、かなり異様らしかった。

「わぁ今日は気合い入ってるねー」

と、部活仲間に驚かれつつ、クリームを泡立てまくる。

腕折れんぞこんちくしょうってくらいに。

「…」

――そりゃあそんなに上手くいくとは思っていなかったけど。

でも、今年のクリスマスはちょっといー感じで過ごせるかなぁなんて、ワンパターンな妄想がちらっと頭をかすめたりもした。

それが――あんなにあっさりばっさり玉砕かい。

つまり私が言いたいのは。

「柔道部主将のばかー」

溜め息混じりの呟きは、ドアをノックする音にかき消された。

「失礼しまーす…」

遠慮がちにひょこっと現れたのは紛れもなく私の溜め息のタネ、七緒。

部員のみんなは「東君だ可愛いー」と囁いたけど、さすがにジャージの天使とか言い出す人はいなかった。

それもそのはず、料理部はもう3年生が引退しているので、七緒より年上はこの教室内にいないのだ。

上級生には熱狂的ファンを持つ七緒だけど、同い年や年下には少し可愛すぎるらしい。そこまで「七緒ラブ!!」な人(それこそ黒岩先輩みたいなの)は1、2年生にはあまりいない。

私にとっては少しでも競争率が減って嬉しい限りだけど。

ドア付近に立った七緒は私と目が合うとこっくり頷いた。

つまり、ちょっと来いって事か?

怪訝に思いながらも近づくと、七緒は珍しく気遣わしげな口調で言った。

「そろそろ部活終わる?」

「うん、5時半だからもうすぐ終わると思うけど。柔道は?」

「さっき終わったんだけど」

七緒はここで一旦言葉を切り、目の前でパンっと両手を合わせた。

「心都に、折り入って頼みがある!」






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