こんな僕たち私たち
「男だっつってんだろが!」

 と、七緒は自分の着ているジャージの上着をガッと捲り、

「眼球ひんむいてよーっく見やがれ!!」

 意味不明な台詞と共に露わになったのはもちろん、女らしさの欠片もない(でも何か色気がないとも言えない)真っ平らな水平線胸。

「…………。」

 さすがに今度は、禄朗も笑わない。

 その表情は何ていうか――名画ムンクの叫びのような。ただし色は一切ついていない。彼は完全に真っ白だった。

 沈黙が、頭に、肩に、心に重い。

「――へっくし…っ」

 本日何回目かわからない七緒のくしゃみが、すっかり暗くなったこの細い道に響き渡った。

「……ぉ…おと、こ…?」

 ぽつりと、禄朗が呟く。魂が抜けたかのような細く弱々しい声だ。

 ようやく冷静さを取り戻したらしい七緒は、ジャージの裾を元に戻した。

「…信じてくれた?」

 その七緒の問い掛けに返事はなく。

 禄朗は生気のない顔のままぼうっと宙を見つめている。瞳の薔薇は枯れてしまった。

「…そこまで言ってくれる気持ちはありがたいよ。でもやっぱり性別に問題ありだし――いや、それ以前に俺、今は部活一筋でいきたいっていうか、誰ともそーいう関係になる気はなくて…だから――ごめん、な」

 黒岩先輩の時と同じ、どこまでも七緒らしい返答。

 私は少しホッとして――そして、やっぱり少し悲しかった。

 けど、当の禄朗の耳にその言葉が届いていたかどうかはわからない。ショックのせいかほとんど白目状態の彼の頭の中には、さっきからあの3文字しか渦巻いていないらしい。

「おとこ……オトコ……男………七緒先輩が、男──…」

「あの、禄朗?聞こえてるか?」

 名前を呼ばれた禄朗が、ぴくっと動く。

 そして、

「う…うわあぁ!!!」

 絶叫しながら、夜道の向こうへと走り去っていった。

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