こんな僕たち私たち
「しゃーない…俺1人で帰るわ。明日朝練で早いし」

「明美さんどうするの?」

「目ェ覚めたら勝手に帰んだろ。悪いけどそれまでここに置いといてやってくんない」

「うん、それは構わないんだけど」

 私は眠りこける2人に布団を掛けながら、窓の外を見た。

「外暗いけど平気ー?」

「は?」

「最近かわいい女の子狙った変質者が多いからね。そこまで送ってこーか」

「それは嫌味ですか」

「まっさかー」

 だって、フリルのエプロンが最高に似合っちゃう七ちゃんだし。いくら5分足らずの道だろうと、こんな暗い中を1人で歩かせたら、お節介おばさんは気が気じゃないわよ。

…いや。本当はそれだけじゃないんだけど。

「僕は女じゃありません。あぁ何かこんなような台詞前にも言った気がするーこれがデジャヴってやつか」

「それは多分今日あなたが禄朗に何回も訴えた言葉だから。……じゃ、せめてドアまで見送ってやろうかなー」

 そりゃあね。

 いくら恥じらいを失おうと、女の子として見られていなかろうと、好きなんだから。

 やっぱり少しでも長く一緒にいたい、とか思ってしまっているわけですよ。

 素直に直接そう言えないのが、なんとも切ないけれど。

「じゃあね、七緒。また明日」

 靴を履く七緒の背中に向かって手を振る。

「じゃーなー。お邪魔しました」

 律儀な挨拶の後ドアを開け杉崎家を出て行く、寒そうなジャージの後ろ姿。

「あ」

 それが突然ぴたりと止まり、振り返った。

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