こんな僕たち私たち
 とりあえず口を開いてみる。

「あの、先生。私、彼が何の用事でここにいるか知ってます。……あっ。っていうかー彼、私に会いにきてくれたんですよ、うん!」

「はぁ?」

 禄朗と橋本が同時に聞き返した。

「私と禄朗クン、学年の壁を越えてすごい仲良しなんです!今も私に会うために朝っぱらから2年の階まで来てくれたんですよ。こんな大騒ぎになってすみませんでした。もう禄朗クンってば相変わらず短気なんだから、デモソコガ素敵ナンダケドネウフフ」

 しまった、最後の方が嘘モロバレな棒読み。っていうか鳥肌立ってきたぞ本当に。

 引きつった表情で何か言おうと口を開いた禄朗を封じるため、私は早口で続けた。

「あの、だからもういいですよね先生、ハイ!――失礼しました!」

 ビバ自己完結。

 呆然とする橋本を残し。

 まだ何か言いたげな禄朗の襟を掴み(手を掴もうとしたら死ぬほど嫌な顔されたので)。

 私は落ち着いた空間を求め、ひどかった髪を更に振り乱し、一目散に走りだした。














「ちょっ、おいテメ…っマジなんなんだよ!離せ!」

 辿り着いたのは、ここ1階の被服室前。あまり使われる事がないので静かに語るには丁度いい場所だ。

 私が手を離すと、禄朗は首元を擦りながら吠えた。

「何すんだよいきなり!!」

 至近距離で、しかも1対1で聞くこの怒鳴り声は耳にキンキン響き、全力疾走後の体にはキツいもんがある。

 私はゼェゼェと乱れる呼吸を整えながら言う。

「あ、あのねっとりあえず殴っちゃいけないから!」

「は?」

「ねぇ、七緒に会いにきたんでしょ?自分の事が原因で先生殴ったって知ったら、七緒が喜ぶわけないでしょーが!」

 七緒の名前を出すと、禄朗はこっちがびっくりするくらい反応した。

「おい、七緒先輩と知り合いなのか!?」

 その目はきらきらと輝いている。

「一応同じクラスで…っていうか私も昨日あの場にいたんだけど。覚えてないんだ」
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