こんな僕たち私たち
 対する禄朗はあの時のショックはどこへやら、今すぐバンジージャンプできるくらいのハイテンションだ。

「先輩、昨日はいきなり走り去ったりしてすんませんでしたっ!」

「あ、いえいえ」

 禄朗の勢いに押され、なんだか敬語気味な七緒。

が、完全に暴走エンジンに火が点いた禄朗は更に熱く語り続ける。

「やっぱり、七緒先輩が男って知った時は落ち込みました。オレ、初恋だったんスよ…。でも!昨日しばらく泣いた後考えました!そしてわかりましたっ!!」

 何が?と聞く暇を与えず、禄朗は七緒の両手を取った。

 その瞳はこれまでのどんな瞬間より光り輝いている。

「男とか女とか、そんなのもう関係ないっス!」

「へ?」

「オレ、人間として惚れたんスよ!!ヒトとして七緒先輩が大好きっス!!つまり、この気持ちはいつまでも変わりませんっ!」

 薔薇、全開。

 恋のライバルの華麗なる復活宣言に、私は蚊帳の外でただただ固まるしかなかった。

「や、でも俺…」

 と、言いかけた七緒を禄朗が素早く遮る。

「わかってるっス。七緒先輩、今は誰ともお付き合いする気ないって。昨日のオレが馬鹿でした!オレ、もうそんな事望みません。こうして七緒先輩と喋っていられるだけで、そんでもって心の中でほんのり想っていられるだけで幸せっス!!」

 なんなんだ、その健気な恋する女のカガミみたいな心意気は。

正直言って、今の私には羨ましい限りだ。

 ずっと傍にいたいし、

 それ以上可愛くならないでほしいし、

 綺麗な先輩にちゅーされるところなんて見たくないし、

 強引な後輩に迫られてまんざらでもなさそうなところも見たくないし、

 クリスマスだって一緒に過ごしたいし、

 いつか大好きって言いたい。

 今思いつくだけで、なかなか自己中心的な私の欲求はこんなにもあるのだから。
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