渇望-gentle heart-
素直に、心の奥底から湧き出た言葉。


流星は小さく口元だけを緩めて見せ、まるで子供をあやすようにあたしの背中をぽんぽんとしてくれる。


この一瞬のために、もしかしたらあたしは、毎日を過ごしているのかもしれない。



「俺、また香織のこと泣かせるかもしれないし、今日みたいに怒らせることだってあるかもしれない。
お前は何度ももう嫌だって思うだろうし、それでも俺はこんなままだとも思う。」


けどさ、と彼は言葉を切り、顔を上げる。



「それでも俺、きっと最後にはここに来てると思うんだ。」


ホストとして、誰からも羨望の眼差しで見られる流星が好きだった。


誰にも負けないほどに輝いていて、この夜に栄える彼じゃなければダメだった。


あたしを優先してほしいなんて言わない。


だから今は、その言葉だけで十分だ。



「嬉しい。」


あたし達は互いに、愛されたいという想いばかりが膨れ上がっていた。


だから結果的に、相手も、自分自身でさえも、がんじがらめになっていたんだ。


流星の笑みは、いつだってあたしの胸を詰まらせるから。



「これからはさ、もうちょっとだけ、香織のこと大事に考えよう、って俺思った。」


「…もうちょっとって、何よ。」


泣きそうになるのを堪えて口を尖らせると、



「愛だとか恋だとかなんて、もう俺にとっては麻痺しちゃってるけど、それでもお前が泣いたり怒ったりするの見て、何かそういうの嫌だな、ってさ。」


珍しく流星は、考えるでもなく話しているようだ。


だから、愛してると言われたわけでもないのに、緩んだ涙腺の端から涙の一粒が零れ落ちてしまう。

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