渇望-gentle heart-
「香織!
出したものは片付けなさいって、何度も言ってるでしょ!」


朝っぱらからリビングで、お母さんの怒号が飛んだ。


へへっ、と笑うあたしと、朝から元気だなぁ、と呆れるお父さん。


トーストの香ばしい香りと、目玉焼き、そして人数分並べられたコーヒーが、我が家の食卓を彩っていた。



「あっ、こら!
また大悟は残して行くんだから!」


高校2年生の弟は、反抗期真っ只中。


けれど、急ぎあたしは、無言のままに玄関に向かおうとする彼の背を追った。



「大悟、これ!」


差し出したのは、あたしお手製のお弁当。


あれから、料理もちょっとだけお母さんに教えてもらうようになったし、レパートリーも増えたと思う。


なので今日のは自信作なんだけど。



「いらねぇよ、そんなもん!」


声を荒げた大悟。


それはいつもの光景だけど、ちょっぴり悲しい。


あたしが警察に捕まった時、大悟は受験生で、随分と迷惑を掛けてしまったし、姉が犯罪者だなんて、きっと彼も複雑なんだと思う。


だから許してほしいなんて言わない。


あれ以来、まともに口をきいてくれることだってなくなったけど、それでもあたしは諦めない。



「犯罪者が作った飯なんか食えるかよ!」

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