渇望-gentle heart-
刹那、あたしの手が振り払われ、持っていたお弁当箱が床に転がった。


大悟はあからさまに目を逸らし、舌打ちをする。



「姉貴の顔なんか見たくねぇって、何度言わせんだよ!」


散乱したご飯あたたかさが、今は切ない。



「ごめんね。」


「ホントに悪いと思ってんだったら、もう俺のことなんか放っとけよ!」


そのまま大悟は、こちらを見ることもなく、家を飛び出した。


これもまたいつもの光景だけど、今日もダメだったか、なんて、苦笑い。


自分の罪の大きさを知る瞬間だ。


例えばそれは、刑期が終えれば帳消しになる、なんてことはなくて、あたしが一生背負っていかなければらないのだと思う。


家を出て、ずっと自分で決めてきたと思っていたけれど、でもそうじゃない。


家族を壊してしまったんだ、あたし。



「大悟の気持ちもわからんではないが、お前もめげるなよ。」


弾かれたように顔を向けてみれば、お父さん。


頷くあたしの肩を叩いた彼は、じゃあ行ってくる、と会社に向かう。


向き合ってみて、初めて分かったことがたくさんあって、そして案外難しいことだと知った。


玄関を綺麗にし、再びリビングに戻ると、忙しい朝の仕事を終えたお母さんが、コーヒーを飲んでいた。


テレビ画面には、待ち望んでいた日付が打たれている。



「今日は彼の出所の日ね。」


「うん。」


「…会いに、行くの?」

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