渇望-gentle heart-
流星に会いに行きたい。


例え拒否されたとしても、顔を合わせ、おかえりと言ってあげたかった。


けど、大悟やお父さんやお母さん、あれから支えてくれた人たちのことを思えば、もう軽率には動けない。


だからまだ、答えは出ていなかった。



「これ以上大悟を呆れさせても、ねぇ?」


苦笑いを浮かべたあたしにお母さんは、



「香織のこと、お母さん信じてるから。」


彼女は言う。



「確かにあの子にまた会うなんて気分の良い話じゃないけど、それでもあなたが心を入れ替えてこれまでを過ごしてきたことは知ってるわ。」


「…お母、さん…」


「人はやり直せるとも思ってる。
だから、香織が考え抜いた末にそれでも会いたいと思うのなら、反対はしないわ。」


過去と向き合うことも時には必要だと、お母さんは言う。


昔はあたしがいじめられてたことすら気付かず、仕事ばかりだった彼女なのに。


なのに今では、すっかり老けこんで、母親らしさが滲んでいるね。


不謹慎だけど、嬉しいとも思ってる。



「あたしね、あの頃、流星に会うことだけを生きがいにしてたの。」


「そうね。」


「家族も、友達も、大学だって必要ないって思うくらい、好きだった。」


言葉にしてみれば、蘇る記憶がある。


そのひとつひとつを掬い上げ、見つめた先に、やっぱり残るのはあの人だけ。



「親不幸でごめんね、お母さん。」

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