渇望-gentle heart-
もうお金持ちじゃなくて、ブランド物だって手が届かないし、男にだって見向きもされないような格好をしてる、あたし。



「病院の先生から複数の依存症だと聞いた時には、お母さんもお父さんも、腑甲斐ない自分を責めたわ。
きっと香織が罪を犯してしまったのは、親の責任でもあると思うの。」


それは違う。


あたし自身が弱くて、流されてしまっただけなんだよ。


本当に、全てを失った。


だから再び構築するのは並じゃなかったけど、でもいつか彼に会える時が来たら、今度はその弱ささえも包んであげられるくらいに強くなろうと決めていたから。


だから今のあたしがあるのだって、やっぱり流星のおかげなんだと思う。


会いに来るなと言った彼の言葉は、優しさなんだと知ってるから。



「お父さんも、あなたに任せると言ってたわ。」


お母さんがそう言った時、あたしの携帯がメール受信の着信を鳴らした。


開いてみれば、そこには“大悟”と表示されている。



≪弁当、ごめんな。≫


絵文字も素っ気もないだけの、簡素な内容だったけど。


こんなメールが来たのは初めてで、図らずも、あたしは涙ぐんでしまった。


特に大悟との和解は、もしかしたらもう望めないのかな、なんて諦めそうになっていたけれど。



「大悟だってきっと、色んな事を考えているはずよ。」


「そうだね。」


一生懸命生きるって、難しいね。


けれど、人との狭間で、自分を見失わずに立つということは、優しさに触れるということでもあった。


もちろん辛かったことなんて山ほどある。


でも、それがあたしの足跡になっているの。

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