渇望-gentle heart-
タクシーから降りて、刑務所の裏手の塀沿いを走った。


息が上がって、足がもつれそうになりながら、それでも踏み出すことを止めなかった。


一年半の想いと、背負ってきたものを抱き締めて、滲むものは汗なのか、涙なのか。


ただ間に合ってと、願いながら――






「流星!」


目前には、ふたつの人影。


名前を叫ぶと、想いが溢れる。



「…香、織…」


やっと会えたね、流星。


黒く短くなってしまった髪の毛と、前より少しふっくらとした顔立ちからは、もうあの頃の面影なんて見えないけれど。


でも今、目の前には、確かに心を揺らした人がいる。



「どうして来たの?」


「会いたかったの。
目を見て、ちゃんとおかえりって言いたかったから。」


もう逃げたりしないよ。


例え今日が最後になったとしても、あの日、伝えられなかった言葉を渡したいから。



「流星のこと、見守っててあげる。」


「…何、言って…」


「守ってあげることは出来なくても、愛してはあげられる。」


彼は顔を覆い、肩を震わせた。



「お前みたいな馬鹿な女、見たことねぇよ。」

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