渇望-gentle heart-
刹那、抱き締められた。


泣いている流星を見たのは初めてで、あたしは汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔で笑ってあげた。


お金に蝕まれていたあの頃、愛や恋なんて見ようともせず、真っ暗闇を駆け抜けていた。


だから出口にあったのは、贖罪という現実だったね。


それでもね、



「会えなかった今までの時間だって、ずっと流星を想ってた。」



今では思うの。



あなたの素顔に触れたかった。

弱さを分かち合いたかった。

孤独を包んであげたかった。



山ほど残った後悔を、ひとつひとつ清算しなきゃ。


失くしたものはもう取り戻せないかもしれないけれど、でもまた築き上げることは出来るんだよ。


傍にいなくても、大切なものはずっとこの胸に存在していたから。




「流星のこと、愛してる。
だからもう、怖がったりなんてしないで。」


肩口に回された腕は相変わらず震えてて、その背中をさすれば、ひどく懐かしい香りがした。



「…馬鹿野郎っ…!」


声を震わせ絞り出した流星の顔は、何とも言えない笑顔だったけれど。


愛を欲して、お金を得、快楽に逃げる日々の中では、あたし達は笑い方さえ忘れていたのかもしれないね。


だからふたり、少し恥ずかしくなった。


流星の傍にいた男の人は、先に行ってるぞ、と言い、歩き出す。



「叔父さん、ありがとう!」

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