渇望-gentle heart-
ずっと傍にいてくれた彼女より、俺は祥子を選んだんだ。
あの街を出て、ふたりで先輩が暮らすこの場所までやってきたけれど、でも結局は、互いに置き忘れてきたものの存在に揺れていたから。
祥子の後悔は、ジローという男。
どんな時でも支えてくれたのに、その想いを踏みにじってしまったのだと言っていた。
「そんな顔してると、幸せが逃げちまうぞ。」
言った大和くんの言葉に、俺は肩をすくめる仕草を見せ、
「だったら俺の分、誰かのところまで飛んで行ってくれると良いんすけどね。」
窓から漏れた朝の陽に、チェストの上の指輪が煌く。
今の俺じゃ何も出来ないから、だから願わずにはいられないんだ。
かつてあの街で、共に過ごした彼女は今、悲しい顔をせずにいてくれているだろうか。
「逃げた俺の幸せが、百合のところまで運ばれたなら、って。」
横にいるのは俺じゃない誰かでも良いんだ、ただ、幸せでいてくれたなら。
やっぱり俺はまだ、百合を探して会いに行けるほどの男にはなれていないから、だから世界と繋がっている空に託す。
どうかあの、下手くそな笑顔を照らしていてください、と。
「俺、百合との思い出があるから、今は前を向いて生きられるんです。」
届かなくても良いから。
伝わらなくても良いから。
それでも俺は願い続ける。
なぁ、百合。
渇望するほど愛してた。
END
あの街を出て、ふたりで先輩が暮らすこの場所までやってきたけれど、でも結局は、互いに置き忘れてきたものの存在に揺れていたから。
祥子の後悔は、ジローという男。
どんな時でも支えてくれたのに、その想いを踏みにじってしまったのだと言っていた。
「そんな顔してると、幸せが逃げちまうぞ。」
言った大和くんの言葉に、俺は肩をすくめる仕草を見せ、
「だったら俺の分、誰かのところまで飛んで行ってくれると良いんすけどね。」
窓から漏れた朝の陽に、チェストの上の指輪が煌く。
今の俺じゃ何も出来ないから、だから願わずにはいられないんだ。
かつてあの街で、共に過ごした彼女は今、悲しい顔をせずにいてくれているだろうか。
「逃げた俺の幸せが、百合のところまで運ばれたなら、って。」
横にいるのは俺じゃない誰かでも良いんだ、ただ、幸せでいてくれたなら。
やっぱり俺はまだ、百合を探して会いに行けるほどの男にはなれていないから、だから世界と繋がっている空に託す。
どうかあの、下手くそな笑顔を照らしていてください、と。
「俺、百合との思い出があるから、今は前を向いて生きられるんです。」
届かなくても良いから。
伝わらなくても良いから。
それでも俺は願い続ける。
なぁ、百合。
渇望するほど愛してた。
END