渇望-gentle heart-
百合の成人式は無事に終わった。


彼女はそれからすぐに仕事をすると言い出し、もう働く場所も決めているのだと言う。



「あのね、そうちゃんの弁護士事務所でバイト募集してるんだって。」


二番目の兄である、爽馬くんのところ。


仕事をすること自体は応援してやりたいけれど、いささか心配にはなってしまう。


そんな俺に、



「そうちゃんがどうしても、って言うしさ。
春までで良いらしいし、あたしやってみようと思って。」


「そっか。」


百合ってヤツは、自分のことは自分で結論を出す女だ。


だからきっと色々と考えた末に決めたことなのだろうし、前を向こうとしているなら、反対する理由はない。



「頑張れよ。
俺、応援してるから。」


「ありがと。」


昔より、随分と素直になったようだ。


家族との関係だって簡単には解決できないし、葛藤だってあるのだろうけど、でも、恨んでたって解決はしない。


近すぎず、けれど遠すぎない今の距離が良いのかもしれないな。



「あたし、ちゃんと仕事して、ジュンと対等になれたらさ、その時に言いたいことあるの。」


「何?」


「内緒。」


「何だよ、気になるじゃん!」


「だからぁ、まだ言わないってば!」


含みのある笑みを零した百合に、何だろうと俺は首を傾げた。


そしてそれから一ヶ月が過ぎ、こんな会話さえ忘れていた頃だった。

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