渇望-gentle heart-
その日、ばあちゃんは老人会の旅行だかで家には居らず、珍しく俺らだけ。


だからってすることもなく、雨音が響く百合の部屋で映画のDVDを観ていたのだけれど、俺はと言えば、意識半分でベッドを占領し、寝転がっていた。


つか、寒すぎるし。



「ねぇ、寝るつもり?」


「んー、まだ大丈夫。」


というのは、ちょっと嘘。


年が明けてすぐ、俺は前からの夢だった飲食店を開業するために仕事を辞め、その準備のために奔走していたのだ。


だからぶっちゃけると、すんごく眠い。


けれど百合は口を尖らせ、揺すり起こそうと俺の上に乗る。



「重いって、死ぬー!」


そんなことを言いながら、いつものようにじゃれ合っていた。


はずだった。


笑いながらわざとのように抱き付いたのに、百合がひどく驚いた顔をするから、何事なのかと思う。


彼女は息を吐いた。



「あたし、ジュンのこと好きだよ。」


「…えっ…」


「ここで暮らすようになって、一番大切な存在だと思ってる。」


珍しくそんなことを漏らした百合に、気付けば心臓の鼓動が速くなる。


抱き締めた腕の力を強め、俺は頷いた。



「俺、百合のこと、世界で一番愛してるよ。」


言ってて声が震えてる自分が情けない。


けれど俺の胸の中で、彼女はきゅっと服を握る。



「あたし、これからもずっとジュンといたいの。」

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