渇望-gentle heart-
その言葉の意味を噛み砕いてみれば、やっぱり不覚にも赤くなってしまった自分がいる。


こういうこと言うのは反則だよな、って。



「あたしは愛される資格なんかないし、ホントはこんなこと言って良いはずないのに…」


百合、と俺はその続きを遮った。



「過去も全部ひっくるめて、俺は百合を選んだんだよ?
だからそんなこと言うなよ。」


言ってやると、彼女は押し黙る。



「大好きだし、世界で一番愛してる。」


持ち上げられた瞳に、口付けを添えた。


それはあの日、オーシャンで初めてしたキスなんかよりずっと、深い意味だったのかもしれないけれど。


愛が奮えて、愛しさばかりが増してゆくんだ。



「良いの?」


問うと、百合の頭が上下した。


今更こんなことで緊張するような年じゃないはずなのに、なのに恥ずかしすぎて、どちからともなく笑った。


笑ってから、まるで壊れ物を扱うように、百合を抱えて体を反転させ、ベッドへと寝かせる。



「一生大事にするよ。」


今にして思えば、それはプロポーズだったのかもしれないけれど。


こんなにも慈しむ愛を、俺は今まで知らなかった。


心を通わせ、百合に触れて、ただそれだけのことが幸せで、泣いてしまいそうになる。


熱を持ったふたつの体が溶け合って、心臓の鼓動が重なって、だからもっともっと愛しく思えた。


出会えたことは奇跡だね。

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