渇望-gentle heart-
百合のことを初めて見たのは、高三の時。


友達の単車のケツに乗って街を流してた時、一軒の豪邸から出てきたのが、お前だった。



「あれ、廣瀬さんとこの一番下の娘だよ。
確か年は、俺らのふたつ下だったと思うけど。」


それは一目惚れだったのかもしれない。


けれど、金持ちのわりに幸せそうでもなく、その瞳はどこか憂いを帯びて見えた。


どうしてそんな顔をしているのかと、俺は目が離せなくなってしまったんだ。



「まぁ、羨ましいけど、俺らとは住む世界が違うっつーか、見てるだけムダだよな。」


そんな友人の言葉も耳を通り過ぎるほど、俺はお前を見つめていた。


忘れるはずなんかない。


だって俺には、百合が天使に見えたから。


それから3年が経ち、オーシャンで一方的な再会を果たした時、これはきっと運命なんじゃないかと思った。



「キミと仲良くなりたいんだ。」


俺の言葉を覚えてる?


けれど百合は、心底面倒くさそうに眉を寄せ、



「何それ、色営に引っ掛かってるほど暇じゃないんだけど。」


「色じゃないって!」


「じゃあ、何?」


「ホストとか関係なく、まずは友達にならない?」


我ながら、馬鹿な男だと思うけど。


でも、それが俺達の始まりだったよね。


あの日からずっと、俺には百合が一番大切で、他に何もいらなくて、お前が笑ってたらそれで良いや、って。


いつも傍にいるだけで良かったんだ。


例え何があっても、辛くても悲しくても、百合の一番近くにいてあげたかった。

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